『日本一怖い! ブック・オブ・ザ・イヤー2006』で紹介
- 『楽園の鳥』の泉鏡花賞受賞について、『日本一怖い! ブック・オブ・ザ・イヤー2006』(SIGHT編集部/編、ロッキング・オン、2005年12月刊)で紹介されていました。
意義深いといえば、泉鏡花賞の結果もまた。浅学非才のトヨザキ、自らの不明を深く恥じております。受賞作『楽園の鳥』は2004年10月27日に刊行されていたのに、まったく目にとめておりませんでした。寮美千子という受賞作家のことも存じ上げませんでした。1986年に毎日童話新人賞を受賞した後、絵本や童話を中心に執筆してきた作家で、この『楽園の鳥』が初めての大人の読者向け小説なんだとか。にしても、わたくしをはじめほとんどの書評家がこの作品をスルーしたのは犯罪クラスの過ちだったというのが、今回の受賞ではっきりした次第です。この小説を候補に挙げた人、偉いっ! 全員一致で受賞させた選考委員、偉いっ! 出版を決めた講談社の宇山さん、偉いっ! おかげで大変遅ればせながら、不肖トヨザキも読むことができました。そして、授賞に深く深く同意と賛意を示す次第です。もし、泉鏡花賞を受賞していなかったら……。おそらくこの傑作は出版物の山の中に埋もれ、話題にもならずに消えてしまったことでありましょう。
……「もし、泉鏡花賞を受賞していなかったら……。おそらくこの傑作は出版物の山の中に埋もれ、話題にもならずに消えてしまったことでありましょう」というのは、その通りだと思います。だから授賞した五木寛之氏は
今回の泉鏡花賞は、文学賞のありうべき効能を示して、他の文学賞の範となっております。すべての文学賞が、こんな風にタイミングよい作家への励ましになりますように、読者にとって良質な読書案内になりますように。この業界の片隅に寄生しているわたくしは祈らずにおれません。
豊崎由美「直木賞から泉鏡花賞まで 今年の文学賞、この選考委員がえらかった!」『日本一怖い! ブック・オブ・ザ・イヤー2006』55頁「“新しい作家”を見出し、受賞をきっかけにジャーナリズムがその作家に注目してくれるような、パイオニア的な役割を鏡花賞は果たすべきではなかろうか、と反省していたところ、この『楽園の鳥』にぶつかり、本当にほっとしました」
と述べられるし、作家も「この作品は、昨年10月に発売以来丸一年、啼かず飛ばず、一部読者には激烈な反応をいただいたものの、文芸批評の俎上に載ることもなく、脚ばかりではなく、翼もない絶滅危惧種では、と危ぶまれていた矢先の受賞でした。おかげさまで、楽園の鳥は崖っぷちから大空へと羽ばたくことが出来ました」
という受賞コメントで応える。『楽園の鳥』の泉鏡花文学賞の受賞/授賞の意義は、まったくそこにある。 - 僭越ながらわしからは「トヨザキさん、偉いっ!」と申し上げます。ありがたい、ありがたい。受賞作についての『文学賞メッタ斬り!リターンズ』でのコメントではここまでの絶賛ではありませんが、なんたって豊崎氏以外の業界人は誰一人として自発的に批評してないんだから、それだけでありがたい。しかも、こうして受賞の意義に着目されたのは、さすがの慧眼です。
- ところで「ほとんどの書評家がこの作品をスルーしたのは犯罪クラスの過ちだったというのが、今回の受賞ではっきりした」とありますが、書評家諸君、まだ遅くはない! 今から一年半のうちに『楽園の鳥』に言及しておけば、次なる大作『夢見る水の王国』(『楽園の鳥』の作中作、超正統派異世界ファンタジー)が完結・単行本化された暁には、“前から知ってた”という態度で、書評家としてのステータスを上げることができるでしょう。