「楽園の鳥」+「夢見る水の王国」メモ

松永洋介が作成した、寮美千子の長編小説『楽園の鳥 ―カルカッタ幻想曲―』(講談社2004)と、その作中ファンタジー『夢見る水の王国』(上下、角川書店2009)についてのメモ。作中のガンジス神話は『天からおりてきた河 インド・ガンジス神話』として絵本化(山田博之・画、長崎出版2013)。

「夢見る水の王国」連載第1回/月刊北國アクタス10月号

ysk2006-09-20

月は迷っている。
迷わなかった月など、ひとつもない。
だから、いまも夜ごとに形を変え、
ひとときとして留まることがない。
       ――ハルモニア博物誌より
楽園の鳥』の作中作として登場していたファンタジー小説夢見る水の王国」。構想十五年の超大作。ついに商業誌での連載が始まりました。
既にウェブ上で「月と水と夢に関する物語のための断片」としてけっこうな分量が発表されていて、「幻想文学」58号(2000年)では「『夢見る水の王国』のための覚え書き」として掲載されている。
それから5年を経て始まった本編は、小説の形態が変化している。断片の集積ではなく、場面ごとにきちんと筋のある、一見ふつうの物語として姿を現したのである。
楽園の鳥』は新聞連載だったので、一回につき原稿用紙3枚。336回、すべて異なるサブタイトルがついており、超短編の連作という趣もあった*1。一方、「夢見る水の王国」の連載媒体は月刊誌であり、第1回だけで50枚もある*2。この枚数があるから、するする読めてボリューム感のある、映画を一本見終えたような感じさえ受ける“物語”になったのだろう。
相変わらず冴える、明確な描写と空気感。伏線らしき要素も満載で、引きの強いラストシーン。どんな展開が待ち受けるのか、期待は高まるばかり。
「月刊北國アクタス」10月号に掲載。オールカラー、挿絵4点入り。著者(寮美千子)と挿画家(上出慎也)の顔写真入り。
小見出しは「さかさまの森/星鏡の間/翼の生えた自転車/月鏡の器/火の龍 水の龍/二重の虹」。

*1:単行本では、各話の継ぎ目は痕跡が残らないほどスムーズに平され、磨き直されている

*2:毎月この枚数で2年間の予定というから、分量は既に『楽園の鳥』に匹敵する