「楽園の鳥」+「夢見る水の王国」メモ

松永洋介が作成した、寮美千子の長編小説『楽園の鳥 ―カルカッタ幻想曲―』(講談社2004)と、その作中ファンタジー『夢見る水の王国』(上下、角川書店2009)についてのメモ。作中のガンジス神話は『天からおりてきた河 インド・ガンジス神話』として絵本化(山田博之・画、長崎出版2013)。

「夢見る水の王国」連載第12回/月刊北國アクタス9月号

ysk2007-08-20

砂漠の舟人ふなびとは、まつろわぬ民。
眠りは水を呼び、人々を近づけない。
   ――ハルモニア博物誌より
連載第十二回。(全二十四回)
前回までのあらすじ 祖父急逝のショックでマコとミコの二人に分裂した少女万美子。ミコから名前を、一角獣から角を奪ったマコは、「世界の果てへ捨てに行く」と言い、海を渡る。残されたミコは、木馬とともにマコを追って幻の島へ。マコの足跡を追って、鉱山を通過し「螺旋の町」へ向かうミコ。弓月市で賑わう町では、一足先に着いたマコが盗みを働いていた。月の神殿でも、少女を「お尋ね者」として手配。追われる身となったミコは、命からがら町を抜けだす。その頃、マコはまっ暗な海を漂流していた。海とは? ミコはマコに追いつけるのか?
デューン』じゃないけど、砂漠にはその環境に応じた独特の暮らしがある。町の人たちとは違う文化を生きている、砂漠の一族の少年が登場。もうひとりの少女マコとの接触で人生が狂う(かどうかは定かでない)。食べ物の描写あり。素朴だがうまそう。
後半、これぞ幻想という圧倒的な描写が、寮美千子パワー全開で展開される。目もくらむようなスケールの、それでいて緻密な手触りの、ひとたび読めば、誌面から目を上げたときには世界が書き換わって見えるような、すさまじいイメージの奔流。かつてセント・ギガの番組で感じることのあった、世界と自分とをつなぐ、強烈な“感覚喚起力”が、短いパートに凝縮されている*1。読むと、頭の芯がパーッと熱くなって、夜眠れなくなる。小説の言葉がここまでの力を持つことに驚かされる。必読。
「月刊北國アクタス」9月号に掲載。オールカラー15ページ、挿絵3点入り。
小見出しは「伏流水/幼月の断食/火と水の音色/木馬の歌う子守歌/虹の夢/夢の砂絵/聖痕/濃霧/隠れ里/龍の滝」。
⇒購入する(7&Y)

*1:それがつまり「詩」というものかもしれない。ジョセフ・キャンベルいうところの「神話」と呼ぶべきかもしれない。

番外:寮美千子編訳『父は空 母は大地』が盗用されている

  • 百五十年前のアメリカ先住民首長のスピーチをもとにした『父は空 母は大地』は、エコロジー思想の神髄を伝える絵本。それが建設族自民党参議院議員に、無断で、しかも「建設こそ自然との共生」というような主張の補強に使われているとなれば、具合が悪い。もし協力者だと思われでもしたら、著者としてはサイテーの事態だ。
  • 歴然たる著作権侵害なので、内容証明を出したら「知りません」という、謝罪なしの返答。そこで弁護士を通じて今度は警告書を送ったら、完全無視。
  • 警告書に書いてあった通りに事態を公表。東京新聞に記事が掲載された。
    岩井氏は三十日、本紙の取材に「文章は四、五年前に三重県の方から教えてもらった。指摘のあった本の存在も知らない」とした上で、「英文では広く一般に流布している」として著作権侵害に当たらないと述べた。その一方で「作家側の主張に納得できれば、その認識を改めることもやぶさかでない」と話した。
    東京新聞:岩井前議員、無断転載か 絵本の文、作家が警告書:社会(TOKYO Web)
  • 「父は空 母は大地」については、従来、ウェブやメールで、コピペの野良テキストが出回っていた。しかし、「メッセージが広まれば」という気持ちもあって黙認されてきた。
  • しかし、建設省河川局長などという開発推進の総本山の親玉のOBの国会議員が、開発の論理の正当化のために使うとなると話が違う。
  • 岩井国臣氏は、重ねての通知にもきわめて無責任な対応。百歩譲って、最初は本人の意図しない著作権侵害だったとしても、そのことを知ってからも侵害行為を継続しているのは悪質。
  • 今後の展開に要注目。
    http://ryomichico.net/seattle.html

父は空 母は大地―インディアンからの手紙

父は空 母は大地―インディアンからの手紙

「夢見る水の王国」連載第11回/月刊北國アクタス8月号

ysk2007-07-20

二日月と三日月の夜に市で売られた物には、月の命が宿る。
それを食べ、身につける者は、月に護られる。
   ――ハルモニア博物誌より
連載第十一回。
前回までのあらすじ 少女は、祖父急逝のショックでマコとミコの二人の少女に分裂。マコはミコから名前と宝物の角を奪い「世界の果てへ捨てる」と言って消える。ミコは角を失った一角獣ともにマコを追い幻の島へ。それは、失われた記憶と角とを取り戻すための旅だった。
 島は、外輪山に守られた、海抜より低い土地だった。ミコは鉱山の老鉱夫に旅の支度を整えてもらい、「螺旋の町」へと向かう。
 その頃、島を統べる「月の神殿」では、占いで凶兆が出る。水鏡に浮かんだ「魔の童子」は、マコだった。神官は童子を捕らえよと命じる。
もうひとりの少女マコが、自身の肉体の違和感と折り合いをつけつつ、町へと到達する。そのあとからミコと馬が町に入ったために巻き起こる騒動。新月の後に開催されるエスニックな市の描写、盛大なチェイスなど、サービス・シーン満載の回。
「月刊北國アクタス」8月号に掲載。オールカラー15ページ、挿絵3点入り。
小見出しは「水の匂い/洗濯場/雲母箱/四つの門/弓月市/石売りの男/安酒場/手配書/十五の月の紋/薬売りの男/漂流」。
⇒購入する(7&Y)

「夢見る水の王国」連載第10回/月刊北國アクタス7月号

ysk2007-06-20

誰も、そこへ戻ることはできない。
ただ前に進んで、再び行きつくことができるだけだ。
   ――ハルモニア博物誌より
連載第十回。
前回までのあらすじ 祖父と二人暮らしの少女マミコは、祖父急逝のショックで、ミコとマコの二人の少女に分裂してしまう。傷ついた心を持つマコは、少女が渚で見つけた一角獣の角を奪い「名前と角を世界の果てに捨てる」と言い捨て、海の彼方へ逃げていった。名前を奪われ記憶を失ったミコは、ただの馬となりはてた一角獣ともに、マコを追跡して幻の島に渡る。
 島には、少女の顔の映じた雲母を持つ、老鉱夫がいた。一足先に着いたマコは、すでに逃亡。ミコは老鉱夫から、島が外輪山の堤防に守られた、海抜より低い土地であることを知らされる。
アイテム、ゲットだぜ! 旅に便利な各種の道具を老鉱夫からいただく。まるでRPGの場面。もらった本人はもちろん、読んでる読者もうれしい感じ。先を急ぐ少女と馬は、鉱夫と別れ、列柱の遺跡を抜けて、町へと向かう。写真のイラストは、町の北の入口の「双頭亀の門」。
「月刊北國アクタス」7月号に掲載。オールカラー15ページ、挿絵3点入り。
小見出しは「贈り物/返礼/前進/残像/手紙/回帰/虹の柘榴石/環状列石/天女の翼/手紙/心がかり/逍遥/遺跡の町/迷路の村」。
⇒購入する(7&Y)

「夢見る水の王国」連載第9回/月刊北國アクタス6月号

ysk2007-05-20

夢の棲む島は、水の下にある。
島の人々は、それを知らない。
   ――ハルモニア博物誌より
連載第九回。
前回までのあらすじ 台風一過の朝、渚に漂着した木馬を見つけた少女は、一緒に暮らす祖父に知らせようと走って帰るが、祖父は倒れ、亡くなっていた。ショックのあまり、記憶を失った少女。すると、少女の分身と思われる少女マコが、少女から名前を、木馬から角を奪い「世界の果てに捨てる」といって、海の彼方へ逃げていった。残された少女ミコは、木馬とともに、謎の少女マコを追跡して、幻の島に渡る。
 島には、二人の少女の顔の映じた雲母を持つ、雲母掘りの老鉱夫がいた。一足先に着いたマコは、そのうちの一枚を砕き、すでに逃げていた。
島に上陸する少女と馬。そして、老鉱夫の話から、島の全景が明らかに。いたるところで反復するイメージが、物語をあらゆる方向に重畳し、みるみる厚みを増していく。
「月刊北國アクタス」6月号に掲載。オールカラー16ページ、挿絵3点入り。今月はドカンと巨大な見開きが入って1頁増。
小見出しは「夢の扉/秘密の洞窟/夢の歩行者/疾風/闇の呼び声/道案内/結晶の音楽/光の晶洞/阿修羅の舞/雲母鏡/三つの聖痕/世界の果てを見た話/強弱/二日の月の子守り歌/石蹴り」。

番外:著作権保護期間延長問題について意見募集

「夢見る水の王国」連載第8回/月刊北國アクタス5月号

ysk2007-04-20

追いかければ、追いかけるだけ、
世界の果ては、彼方へと遠のく。
   ――ハルモニア博物誌より
連載第八回。
前回までのあらすじ 島の雲母鉱山の老鉱夫は、雲母に映る夢の絵を砕き、世界に還すことを仕事としていた。ある日、愛らしい少女の顔を見つけ、老鉱夫はそれを手放せなくなる。
 その雲母に映じた少女は、こちらの世界で祖父と暮らしていた。ある朝、渚に漂着した木馬を見つけた少女は、大喜びで家に向かう途中、息絶えた祖父を見つける。驚愕のあまり記憶を失う少女。気がつくと、少女の黒い影が立ちあがり、悪魔の子マコと名のって「世界の果てに名前と角を捨てに行く」と海の上を逃げていく。残された少女ミコは、木馬のヨミと、マコを追って海を渡る。海の上には鏡が浮かび、そこに見知らぬ島が映じていた。二人は鏡の中へ……。
少女と馬は、冒険の舞台となる島になんとか到着。だが断崖に阻まれて上陸できない。先に島に入っていたもうひとりの少女は、不思議な行動を見せる。少女を目撃した島の男と、事態に動揺する老鉱夫は“世界の果て”の概念に直面する。
「月刊北國アクタス」5月号に掲載。オールカラー15ページ、挿絵3点入り。
小見出しは「鏡の扉/雲母と銀鱗/雲母迷宮/西の岬 東の岬/宝石の葡萄/石の荒野/絵文字/遠い約束/白い貝殻/光の通信/月の舟/波の音」。