「楽園の鳥」+「夢見る水の王国」メモ

松永洋介が作成した、寮美千子の長編小説『楽園の鳥 ―カルカッタ幻想曲―』(講談社2004)と、その作中ファンタジー『夢見る水の王国』(上下、角川書店2009)についてのメモ。作中のガンジス神話は『天からおりてきた河 インド・ガンジス神話』として絵本化(山田博之・画、長崎出版2013)。

授賞式での選考委員コメント/五木寛之氏

  • 授賞作品について 五木寛之氏(※松永による抜粋要約)
    • まず感心したのは文章がしっかりしている点。いまの小説の、新しい試みというか文章の乱れというか、そういうものとは無縁の、ちゃんとした文章で物語が進行している。立派なことだと感心しました。
    • 連れ合い(五木寛之氏夫人の玲子氏)が、俳人で評論も書く深夜叢書社代表の齋藤愼爾くんから「この小説は面白いからぜひ読め」と『楽園の鳥』を薦められたそうです。彼女が読んで非常に感激し、今度はわたしに「これを必ず読め」と薦めました。そういう、口コミというか、人間の輪の中から手渡された一冊なんです。
    • 読んで「これはすばらしい」と思っていたところ、たまたま泉名月さんから「この作品を鏡花賞の候補に推薦したい」というお話がありました。いろいろなことが絡まりあって、今度の授賞となったわけです。
    • 鏡花も書いていますが、世の中というのは人間の不思議な縁の輪のなかからいろいろなものが生まれてくるのだと、とても不思議な縁を感じました。
    • 鏡花賞も33回目ですが、最初の志は「できるだけ新しい人に脚光を当てて、その方に活躍していただきたい」ということでした。第1回の受賞作家は半村良氏。色川武大氏、澁澤龍彦氏、筒井康隆氏もそれぞれ鏡花賞が初めての受賞です。
    • 澁澤氏に電話したとき「澁澤さん、この賞いただいてもらえますか」と言ったら「文学賞はもらわない主義だ。でもなあ」と一瞬間をおいて「ぼくは鏡花が好きだから、この際思いきってもらうことにしましょう」とおっしゃった。澁澤氏の長い経歴のなかで初の受賞となりました。そこで封を切ってしまった以上“毒食わば皿”で、読売文学賞をはじめ、その後続々とたくさんの文学賞をやけっぱちでもらっておられました。
    • 初期の頃はできるだけ“未知の才能に対して賞を出す”という傾向があったんですが、時間が経つにつれて、野に遺賢がなかなか見つからなくなりました。芥川賞直木賞を受賞したような話題の作家が賞の候補に上がってくるという傾向があり、どこかで軌道修正して初心に戻さなければ、という気持ちがずっとありました。
    • “新しい作家”を見出し、受賞をきっかけにジャーナリズムがその作家に注目してくれるような、パイオニア的な役割を鏡花賞は果たすべきではなかろうか、と反省していたところ、この『楽園の鳥』にぶつかり、本当にほっとしました。
    • 寮さんもこれから鏡花賞受賞作家として、本当にいい仕事をなさってください。楽しみにしております。
    • 受賞作品についての論評を控えたのには含みがあって、こういう場所で詳しく作品を分析すればするほど、読後感が痩せていく感じがあるんです。わたしたちは、たとえば古典の文庫を読むときに、できるだけ解説は最後に読もうと思いつつ、誘惑に駆られて最初に解説を読んでしまうという悪い癖があります。『楽園の鳥』は、先入観なしに、まるごとお読みになっていただきたい。「これはすばらしい作品だ」という選考委員の人たちの意見を信じて、ぜひ手にとってお読みいただきたい。その後でいろんな意見が出て然るべきだと思います。