「夢見る水の王国」連載第16回/月刊北國アクタス1月号
空の底にひしめく真昼の星のように、連載第十六回。
魂たちは、地の底で輝いている。
――ハルモニア博物誌より
前回までのあらすじ 祖父急逝のショックでマコとミコの二人に分裂した少女万美子。荒ぶる魂のマコは一角獣の角を奪って「世界の果て」へと逃走。ミコと一角獣はマコを追って幻の島へ。島の神殿では占いにより少女を「禍いの童子」として手配していた。砂漠に迷いこんだマコは、黒猫ヌバタマの化身に助けられる。ミコは砂漠を渡って村長の葬列に参加、女装の男・極楽鳥とともに「世界の果ての黄泉帰りの森」へ向かう。島の神話では、神殿の長老と老鉱夫は双子の兄弟、村長はその兄で、世界のはじめから存在しているという。島の正体は?もうひとりの少女マコは黒豹のヌバタマとともに過酷な砂漠を横断しようとしている。地上を避けて地下水路を進行していると、突然水中から出現した黒い影に襲われる。
少女ミコは村長の野辺送りの葬列とともに「世界の果ての森」へと向かう。同じく葬列に同行する「極楽鳥」という人物にさまざまな話を聞く。かくも複雑な、心のかたち、人のかたち。ふたりで遺灰を撒くうち、馬に乗った「月の神殿」の追手たちに発見されてしまう。
一方、ヌバタマのおかげで黒い影の襲撃を逃れた地下水路のマコを、今度は猛烈な鉄砲水が襲った。
「月刊北國アクタス」1月号に掲載。オールカラー15ページ、挿絵3点入り。
小見出しは「真昼の星/幻の森/夢殿/黒い手/地の虹/瀝青/散華輪廻/子鹿/散骨/鼓動/出発/お守り/水呼び/濁流」。
⇒購入する(7&Y)
「イベントスケジュール」のページに上出慎也「夢見る水の王国」原画展(1月19日〜2月18日、金沢文芸館)の案内あり。
「夢見る水の王国」連載第15回/月刊北國アクタス12月号
黄泉帰りの森は、世界の果ての森。連載第十五回。
世界はそこで終わり、そこから始まる。
――ハルモニア博物誌より
前回までのあらすじ 祖父急逝のショックでマコとミコの二人に分裂した少女万美子。荒ぶる魂のマコは「世界の果て」へと逃走。ミコと馬はマコを追って幻の島へ。島の神殿では、占いにより、少女を「禍いの童子」として手配していた。行く先々で問題を起こすマコは、とうとう砂漠に迷いこみ、死んだはずの黒猫ヌバタマの化身に助けられる。一方、一足遅れて島へとたどりついたマコは、砂漠の舟人の息子カイの手助けで砂漠を渡り、村へとたどりつく。村では、葬列が「世界の果てにある黄泉帰りの森」へと野辺送りに出発するところだった。森の村の風俗。“世界の果て”をめざして進む葬列の鮮やかな色と動き、音色とリズム。少女ミコも賑やかな列にまぎれて歩いていく。やがて柩は一角獣の飾り物とともに激しい炎に包まれ、天へと還る。突然亡くなったという村長は、誰も知らないほど長生きだったらしい。その人物像と重なる島の神話が語られる。島の神話では、大長老と老鉱夫は双子の兄弟。村長はその兄ということになっていた。
一方、誰も知らないほど長く生きている月の神殿の大長老は、ミコの居場所を察知し、すぐさま追手を放つ。誰も知らないほど長く生きている雲母掘りの老鉱夫は、坑道に異変を感じている。
もうひとりの少女マコは、黒豹の姿で現れたヌバタマとともに砂漠で絶体絶命の危機に瀕していたところ、なんとか活路を見出す。
ミコを村へ送ってきた砂漠の舟人の少年は、ミコに再会を誓い、別れを告げる。ミコには、しなければならないことがあるのだ。
「月刊北國アクタス」12月号に掲載。オールカラー16ページ、挿絵5点入り。
小見出しは「葬列/潮騒/魂の乗り物/神話/変調/饗宴/魔の珠/二連星/風紋/約束/地下水路/聖なる灰/追手」。
⇒購入する(7&Y)
『人間を守る読書』で紹介
- 『楽園の鳥』が、『人間を守る読書』(四方田犬彦、文春新書592、2007年9月刊)で紹介されています。第4章「読むことのアニマのための100冊」中の一冊。
魂の救済を求めタイからネパールへと彷徨ってゆく女性の物語。彼女はイギリス男に躓き、骨董もののバイクを持ち出そうとして失敗し、暑さと貧困のなかでしだいに変身の欲求に促されていきます。「美しかりし夢の世」の破綻を描いてきた作者は、ここで始めて*1現実の汚穢をかい潜り、魂の浄化に到達することを知りました。
……四方田氏は『楽園の鳥』の帯の推薦文を書いた人でもあります。
『人間を守る読書』275頁 - 『人間を守る読書』には、古今東西の、いったい人はどこを歩いていればこれほど多様な書物と出会うことができるのだろうかと思うほど実にさまざまな本が紹介されています。帯によれば155冊。うち100冊は第4章の短評。第1章「生のもの」第2章「火を通したもの」第3章「発酵したもの」はそれぞれやや長い批評で構成されていますが、「生のもの」の一冊として、なんと『ノスタルギガンテス』(寮美千子、パロル舎、1993年)が4ページ超にわたって紹介されています*2。
- そもそもこの大仰なタイトルの付いた書評集はどんな性格の本なのか。書評をあちこち書いているうちに数が溜まってきたので、新書にまとめてみた? いやいや、そんなものじゃない。
本を読まなくてもインターネットがあれば充分という人がよくいます。(……)仕事で調べものをするだけなら、それでいいかもしれません。でも書物は情報の束ではないのです。書物というのは何かを伝えようとする意志なのです。
……『人間を守る読書』は、四方田氏の書物に対する思い入れが伝わってくる“熱い”本。書評というより、本と読書を再定義しようとするアジテーションといったほうが近いかもしれない。橋本治が『浮上せよと活字は言う』(中央公論社、1994年)*3で「人は言葉でものを考える、だから活字は文化の中心なのだ」と宣言して、出版物の本来の力を発掘しようとしていたのを思い出しました。
『人間を守る読書』「前書きにかえて」――人間を豊かにする読書とは?
……こういう観点から選ばれた百数十冊のうち、寮美千子作品が二冊。四方田氏の読書量と執筆量からいって、数合わせに入れられた書評ではないはず。ありがたい評価です。
読み直すに値する本をみつけるということに尽きるんではないでしょうか。読書というのは量の問題ではなくて質の問題なのです。
(……)
もちろんここに紹介した本はわたしが読みなおすに値すると思った本ばかりです。
『人間を守る読書』「前書きにかえて」
Amazon.co.jpのレビュー表示に新機能が
- ここのところ、アマゾンの個別商品ページのデザインがちょくちょく変更されている。
『楽園の鳥』のページでは、「それは違うでしょう」と言いたくなるレビューが最新で、長らくいちばん上に表示されていた。それが最近、「このレビューは参考になりましたか?」ボタンの投票結果が反映されて、評判のよいレビューがピックアップ表示されるようになっていた。 - きょう見たら、また新機能が加わっていた。それはレビューの星の数を示した棒グラフ。
現在の『楽園の鳥』のグラフは図の通り。星3つを付けた人が一人もいない。少ないサンプルながら、賛否両論というのが目に見えてわかります。面白い。
ちなみに、ほかの寮美千子作品のレビューは軒並み星5つばかりで、グラフとしては面白みに欠ける。 - ただいま連載進行中の作中作『夢見る水の王国』は、『楽園の鳥』に続き、またもや“誰も見たことのない作品”が出現しつつあります。一作だけだと「例外」だけど、二冊になれば、それはもはや「ジャンル」なのではないか。どんな名前をつけたらいいかはさっぱり見当がつきませんが。
連載が完結して単行本が刊行されたらどんな形の反響があるか、いまから楽しみ。
「夢見る水の王国」連載第14回/月刊北國アクタス11月号
砂蛍の寿命は丸一日。夕暮れに羽化し、朝まで光の舞を舞う。今宵光る砂蛍は、昨日の砂蛍ではない。連載第十四回。
――ハルモニア博物誌より
前回までのあらすじ 祖父急逝のショックでマコとミコの二人に分裂した少女万美子。荒ぶる魂を持ったマコは、ミコから記憶を、一角獣から角を奪い「世界の果てへ捨てに行く」と逃走する。ミコと馬は、マコを追って幻の島へ。島の神殿では、占いにより、少女を「禍いの童子」として手配していた。行く先々で問題を起こすマコ。そのマコの足跡をたどるミコ。砂漠の舟人から小舟を奪ったマコは、本物の砂漠に迷いこみ、死んだはずの黒猫ヌバタマの化身に助けられる。ミコと馬は、一足遅れて、砂漠の舟人の船へとたどりつこうとしていた。舟を奪って逃亡したマコに続いて砂漠の一族の少年の一家と接触した少女ミコは、日中の砂漠横断は不可能と諭され、農作業を手伝いながら夜を待つことに。
「わからないな。全然わからないよ。それに、もしそんなふうになっていたら、大変じゃないか。山が崩れたら、みんな水浸しだ」砂漠の舟人の農業は、想像を絶する驚くべきものだった。しかしそれが彼らの日常風景なのだ。日の出から日没まで毎日毎日繰り返される、満ち足りた労働。
「そうよ。その通りだわ」
夜になって二人は、少年の操る舟で森の村へと向かう。着いた村では、今まさに盛大な葬儀が行われようとしていた。葬列は“世界の果て”の森へ行くという。
一方、マコは、黒豹の姿で現れたヌバタマとともに、ほとんど不可能ではないかと思われる砂漠の横断に足を踏み入れてしまっていた。
「月刊北國アクタス」11月号に掲載。オールカラー15ページ、挿絵3点入り。
小見出しは「漂着/種蒔き/青い珠/水撒き/青い火花/銀河/木馬の歌う子守唄/森の絵はがき/護符の瞳/祝祭の色/花の柩」。
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「夢見る水の王国」連載第13回/月刊北國アクタス10月号
満月の晩、月光がそこだけ強く集まる場所がある。そこには、月光を鋳込んだ瑠璃色の玻璃を蔵した塔が埋まっている。塔は時に幻の青い炎をあげ、砂漠の旅人を惑わす。連載第十三回。
――ハルモニア博物誌より
前回までのあらすじ 祖父急逝のショックでマコとミコの二人に分裂した少女万美子。ミコから記憶を、一角獣から角を奪ったマコは、「世界の果てへ捨てに行く」と海を渡る。ミコと馬は、マコを追って幻の島へ。島の月の神殿では、少女を「禍いの童子」として手配していた。追われる身となったミコは、命からがら町を抜けだし、渡し船で川を渡ろうとして流されてしまう。目の前には滝が迫っていた。一方マコは、砂漠から湧きだした水に溺れかけ「砂漠の舟人」の少年に助けられる。しかし、マコは少年を裏切り、小舟を奪って独り南へ向かう。少女ミコは滝壺での凄まじい体験の後、木馬とともに砂漠に到達。夜になって驚くべき変化をみせる砂漠の姿を目撃する。もうひとりの少女マコは、ずいぶん苦労して砂漠を越えようとするが、肉体的にも心理的にも危険すぎる状況。そこへ、思わぬ懐かしい助けが現れる。
「月刊北國アクタス」10月号に掲載。オールカラー16ページ、挿絵3点入り。今月はさらに、愛読者プレゼント「著者手作り 魔子の第三の眼チョーカー」の告知あり。アクタス本誌に綴じ込みのハガキで応募。抽選で1名に。
小見出しは「透明な鱗/金の糸の網/木馬の歌う子守歌/鉈豆/失われた力/月の滴/砂の顔/月輪塔/回帰」。
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番外:「父は空 母は大地」の著作権侵害で岩井國臣前議員を民事提訴
美しい大地の思い出をついに民事提訴。
受けとったときのままの姿で
心に 刻みつけておいてほしい。
――「父は空 母は大地」より
前回までのあらすじ 百五十年前のアメリカ先住民首長のスピーチをもとにした『父は空 母は大地』は、エコロジー思想の神髄を伝える絵本。それが建設族の自民党参議院議員に無断で「開発こそ自然との共生」というような主張の補強に使われている。著作権侵害を指摘する内容証明を出したら「知りません」という、謝罪なしの返答。そこで弁護士を通じて今度は警告書を送ったら、完全無視。誠意の欠片も見られない対応だった。(2007年8月1日「番外:寮美千子編訳『父は空 母は大地』が盗用されている」より要約)